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著者 ハルオ(プロフィール)公開日 2026年10月10日最終更新 2026年10月13日

変わらない5つの問い

第1部 基礎(3ページ中3ページ目)

「新しいAIの製品や機能が次々に出てきて、何から覚えればよいのか分からない」

このページでは、AIエージェントに業務を任せる前に考える5つの問いと2つの軸を、問い合わせ返信や見積書などの業務の例で説明します。

結論
  • AIエージェントに仕事を任せる前に決めることは、ゴール、コンテキスト、権限、検証、安全と責任の5つです。
  • 決めた内容は、プロンプト(AIへの指示)とハーネスの設定に分けて書きます。
  • 新しいAIの機能は、使い方を覚える前に、5つの問いのどれを受け持つ機能かを当てはめてください。
  • AIエージェントが人の見ていない時間や場所で動くほど、『検証』と『安全と責任』を先に決める必要があります。

このページで出てくる言葉の意味は用語一覧で確認できます。

業務でどう使うか

使いどころ
  • 見積書や請求書の下書きを初めて AIエージェントに任せるとき、5つの問いに答えられる仕事から始める
  • 新しいAIの機能を検討するとき、5つの問いのどれを受け持つ機能かを先に当てはめる
  • 在庫表や顧客名簿を AIエージェントに扱わせる前に、『権限』と『安全と責任』を書き出す
避けたい使い方
  • 何ができたら完成かを決めずに頼み、生成物を見てから考える
  • AIエージェントの「できました」という報告を、確かめずに請求書や帳簿に入れる
  • 送信、公開、支払い、削除のような外部に出る操作まで、まとめて AIエージェントに任せる

AIを業務に導入する際に答える5つの問い

AIエージェントに仕事を任せる前に、次の5つを決めます。

ゴール何ができたら完成か。形式、分量、合格の条件を決める
コンテキストAIエージェントが何を知った状態で始めるか。渡す資料と渡さない資料を決める
権限AIエージェントにどの機能を使わせ、どの操作をさせないかを決める
検証生成物が正しいことを、何で、誰が確かめるかを決める
安全と責任外部に出る操作、お金、機密情報の扱いを、誰が判断するかを決める

問い合わせメールの返信案づくりを AIエージェントに任せる場合、決めることは次のとおりです。

ゴール
返信案をいくつ、どの長さ、どの言葉づかいで作れば完成とするか。
コンテキスト
過去の返信例や料金表を渡す。
権限
返信の下書きを作るところまで。メールの送信はさせない。
検証
返信案の料金の数字を、料金表と照合する。
安全と責任
送信ボタンは人が押す。お客様の名前とメールアドレスはAIに渡さない。

この5つが決まっていれば、使う製品が ChatGPT でも Claude Code(Anthropic 社が提供するAIエージェント)でも、頼み方の骨組みは同じです。実務では、決めた内容をプロンプトとハーネスの設定に分けて書きます。ゴールやコンテキストはプロンプトに、権限や止める地点はハーネスの設定に書くことが多くなります。

5つの問いの必要性

AIエージェントは、人が決めていないことを推測で補って作業を進めます。推測が外れると、それらしく見えて業務に使えない生成物ができます。

AIの使い方を表す言葉は、プロンプトエンジニアリングからハーネスやループへと変わってきました。それでも Anthropic と OpenAI の公式ドキュメントは、次の4点を共通して求めています。

  • 何ができたら完了かを先に決める
  • 必要な情報だけを渡す
  • AIエージェントが自分で結果を確かめられる手段を用意する
  • 取り返しのつかない操作の前で、人が止められるようにする

この4点は、ゴール、コンテキスト、検証、権限にあたります。5つ目の『安全と責任』は、契約、支払い、公開、送信、削除の結果に責任を負う人が決める問いです。AIエージェントの性能が上がっても、この問いは人の側に残ります。

問いごとに決めること

問いごとに、決めることと、決めないと起きること、業務での例を示します。

ゴール何ができたら完成か

AIエージェントは、作業が終わったように見える地点で止まります。完成の姿が決まっていないと、止まった地点が正解かどうかを誰も判定できません。

何を決めるか
完成の形式と分量、合格の条件、やらなくてよいこと。
決めないと起きること
それらしい生成物はできるが、業務に使えない。直しの往復が終わらない。
業務での例
見積書の下書き。用紙の大きさ、品目の行数、消費税の書き方まで決めてから頼みます。決めきれない点は、AIエージェントに質問させます。
プロンプト例

見積書の下書きを作ってください。A4で1枚、品目は5行以内、消費税は別の行に書きます。決まっていない点があれば、作り始める前に選択肢つきで1つずつ質問してください。

コンテキストAIエージェントは何を知った状態で始めるか

AIモデルは、そのセッションで渡された情報の範囲でしか判断できません。あるセッションの内容は、別のセッションには引き継がれません。

何を決めるか
渡す資料、読み手が誰か、守ってほしいルール、渡さない資料。
決めないと起きること
毎回同じ説明が必要になる。一般論しか返ってこない。関係のない資料を詰め込むと、精度が落ちる。
業務での例
問い合わせ返信。過去の返信例と料金表を渡し、読み手がどんなお客様かを伝えます。
プロンプト例

添付の過去の返信例10通と料金表をもとに、次の問い合わせへの返信案を作ってください。読み手はパソコンの操作に慣れていないお客様です。専門用語を使わずに書いてください。

関連:『AIに渡すコンテキスト』

権限AIエージェントに何を使わせ、何をさせないか

チャットで答えるだけのAIと違い、AIエージェントはファイルを書き換え、コマンドを実行し、外部サービスに接続できます。できることが増えるほど、させない操作を決める意味が大きくなります。

何を決めるか
作業してよいフォルダ、使わせる機能、させない操作、AIエージェントと人の分担。
決めないと起きること
想定外のファイルの変更、外部への送信、意図しない課金。
業務での例
在庫表の整理。作業は「在庫」フォルダの中だけにし、元の表は複製してから触らせます。仕入れ先への発注メールは人が送ります。この線引きは、プロンプトとハーネスの設定の両方に書きます。
プロンプト例

「在庫」フォルダの中だけで作業してください。元の在庫表は複製してから整理し、元のファイルは書き換えないでください。発注メールの送信は行わず、送信前の下書きまでにしてください。

設定の例
  • Claude Code の権限モードを Manual にして、ファイルの書き換えのたびに確認させる
  • 「在庫」フォルダを開いて Claude Code を起動し、作業の範囲をそのフォルダに限る

プロンプトに書いたことは、AIモデルが守らない場合があります。必ず止めたい操作は、ハーネスの設定で止めてください。

関連:『AIに与える権限』

検証生成物が正しいことを何で確かめるか

AIエージェントの「できました」は報告で、正しいことの証拠ではありません。確かめる方法は、頼む前に決めてください。

何を決めるか
何と照らし合わせるか、誰が確かめるか、1セッションの中で直しを頼む回数の上限。
決めないと起きること
もっともらしい誤りが、そのまま請求書や帳簿に入る。直しを頼むたびに、別の箇所が崩れる。
業務での例
請求書の集計。AIエージェントが月の請求額を集計したあと、合計を元の売上表と突き合わせます。生成物を作ったAIエージェントとは別の、確認専用のサブエージェントに確認させる方法もあります。
プロンプト例

集計が終わったら、合計額を売上表の合計と照合し、一致したかどうかを報告してください。根拠ごとに「元の表で確認」「計算で確認」「未確認」のどれかを付けてください。

関連:『生成物の検証』

安全と責任外部に出る操作、お金、機密情報を誰が決めるか

契約、支払い、公開、送信、削除の結果に責任を負うのは人です。AIエージェントに任せるのは、その手前までにします。

何を決めるか
人が押すボタン、機密情報の置き場所、止め方、予算の上限。
決めないと起きること
誤った公開や送信、機密情報の漏えい、止め方が分からない自動処理、請求額の急増。
業務での例
SNS投稿。投稿文の案を作るところまでを AIエージェントに任せ、投稿ボタンは人が押します。
お客様へのお知らせメール。本ガイドの推奨は、AIを提供する会社の契約プランに関係なく、個人情報と機密情報をAIに入れないことです。AIエージェントには {氏名} のような差し込み欄を入れたひな形だけを作らせ、名前やメールアドレスの差し込みは、メールソフトや表計算ソフトの差し込み機能で行います。件数が多くても、手で打ち直す必要はありません。
プロンプト例

お客様へのお知らせメールのひな形を作ってください。お客様の名前は {氏名}、ご契約日は {契約日} と書き、実際の値は入れないでください。

APIキーやパスワードのような認証情報はチャットに書かず、.env のような専用のファイルに置いてください。チャットに書いた内容は、PCのセッション記録と Anthropic のサーバーの両方に残るためです。

関連:『安全の原則』

時間軸と場所軸

AIエージェントがいつ動くか(時間軸)と、どこで動くか(場所軸)によって、特に確かめる問いが変わります。

軸動き方特に関連する問い
時間軸その場。人が目の前で頼み、結果を見る5つの問いの基本の形
定期。決まった時刻に動く安全と責任
監視。何かが起きたら動く検証 安全と責任
場所軸PC。PCの中のファイルに直接触れる権限
クラウド。AIを提供する会社のコンピューターで動き、PCを閉じても動くコンテキスト 権限
スマホ。PCやクラウドで動いているセッションを、外から操作する安全と責任
外部サービス。会計やメールなど、業務の記録そのものを扱う権限 安全と責任

時間軸では、人が見ていない時間が長くなるほど、『安全と責任』の比重が上がります。決まった時刻に動くルーティンのような無人の処理では、外部に出る操作を入れるかどうか、止め方、予算の上限を先に決めてください。

場所軸では、動く場所が変わると『コンテキスト』と『権限』が変わります。クラウドにはPCの中のファイルが無く、PCにはクラウドの接続設定が無いため、PCで動いた作業がクラウドでは動かないことがあります。

例

前日の売上の集計を毎朝7時に自動で動かす場合、その場で頼むときには不要だった「失敗したら誰に知らせるか」「1か月の利用料の上限」を決める必要が出てきます。

関連:『定期実行と監視』、『AIの仕組み』

新しいAIの機能の見極め方

新しい機能は、名前を覚える前に、次の4つの工程で確かめてください。

5つの問いのどれを受け持つかを当てはめる過去のセッションの内容を引き継ぐ機能なら『コンテキスト』、承認の機能なら『安全と責任』
どの軸で動くかを確かめるその場か、定期か、監視か。PCか、クラウドか、外部サービスか
残りの問いに抜けが無いかを確かめる便利になった分、検証や止め方が抜けていないか
料金、上限、データの扱いを確かめるAIを提供する会社の公式ドキュメントで確認する

関連:『現時点の仕様』

注意

インターネットで見つけたプロンプトのひな形を使い回すだけでは、『ゴール』と『コンテキスト』が自社の業務に合いません。ひな形は、一般的な業務を前提に書かれているためです。

5つの問いで決めたことを、狙った生成物に近づけるための書き方の型は、次のページで紹介しています。

関連:『プロンプト設計の型』

まとめ

  • AIエージェントに仕事を任せる前に決めることは、ゴール、コンテキスト、権限、検証、安全と責任の5つです。
  • 決めた内容は、プロンプトとハーネスの設定に分けて書きます。必ず止めたい操作は、ハーネスの設定で止めてください。
  • 個人情報はAIに入れず、ひな形と差し込みに分けて扱ってください。
  • AIエージェントが人の見ていない時間や場所で動くほど、『検証』と『安全と責任』を先に決める必要があります。
  • 新しい機能は、5つの問いのどれを受け持つかを当てはめてから使ってください。

よくある質問

5つの問いは、ChatGPT のようにチャットで使うAIにも当てはまりますか?
はい。チャットで使うAIでは『権限』の範囲が小さいだけで、ゴール、コンテキスト、検証、安全と責任は同じように必要です。返信案を作らせるときも、何ができたら完成か、何を渡すか、誰が確かめるか、送信ボタンを誰が押すかを決めてから頼んでください。
5つの問いを、毎回すべて決める必要がありますか?
最初は『ゴール』と『安全と責任』の2つだけでも構いません。何ができたら完成か、外部に出る操作のボタンを誰が押すかが決まっていれば、大きな失敗を避けやすくなります。慣れてきたら『コンテキスト』と『検証』を足してください。ファイルの読み書きやコマンドの実行をするAIエージェントを使うときは、『権限』も決める必要があります。
5つの問いは、Anthropic や OpenAI の公式ドキュメントにある分類ですか?
いいえ。公式ドキュメントに共通する4つの考え方に、人が負う責任を足して、本ガイドが5つに並べました。4つとは、完成の条件を先に決める、必要な情報だけを渡す、確かめる手段を用意する、取り返しのつかない操作の前で人が止められるようにする、です。

「うちの場合はどこから始めるか」を一緒に整理します

本ガイドは、個人事業主や中小企業が、AIを業務に使うための考え方をまとめたものです。読んで「自社の業務ではどうなるのか」と思った方は、お問い合わせフォームから、今の業務と困りごとを教えてください。

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