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著者 ハルオ(プロフィール)公開日 2026年10月10日最終更新 2026年10月13日

安全の原則

第2部 各論(8ページ中6ページ目)

「AIを業務に使いたいが、情報が漏れたり、頼んでいない操作をされたりしないかが不安だ」

このページでは、AIエージェントを業務に使うときの安全の原則を、守る4つの場所に分けて、問い合わせ対応や見積書の例で説明します。

結論
  • AIが読むメールや Webページには、AIをだます指示が紛れ込むことがあります。読ませるものを絞り、権限は必要な分だけにします。
  • 個人情報と機密情報はAIに入れず、業務をひな形と差し込みに分けます。
  • 送信、公開、支払い、削除の直前では、人が内容を見て承認します。
  • 控えと利用料の上限を先に作り、APIキーが漏れたら削除より先に無効化します。土台は IPA(情報処理推進機構) の情報セキュリティ6か条です。

このページで出てくる言葉の意味は用語一覧で確認できます。

業務でどう使うか

使いどころ
  • 問い合わせメールの返信案を AIエージェントに作らせ、送信ボタンは人が押す
  • 顧客名簿を使う業務を、ひな形づくりと名前の差し込みに分けて、ひな形だけをAIに作らせる
  • 請求書や見積書のひな形を AIエージェントに直させる前に、控えを取る
避けたい使い方
  • APIキーやパスワードをチャットに書く
  • 顧客データを読める状態のまま、外部への送信もできるようにしておく
  • 「リンクを知っている人だけ」の共有を、非公開だと思って使う

守る4つの場所

安全の原則は、情報の入口、権限、外部に出る出口、失敗への備えの4つの場所で守ります。

場所守ること問い合わせの返信案づくりでの例
情報の入口読ませるものを絞り、個人情報と機密情報を入れないお客様の名前と連絡先は渡さず、問い合わせの本文だけを渡す
権限必要な分だけ渡し、機密を読める状態と外部に送れる状態を同時に作らない返信案をファイルに書くところまでにして、メールの送信はさせない
外部に出る出口送信、公開、支払い、削除は、人が内容を見て承認する返信案の料金を料金表と照合してから、人が送信ボタンを押す
失敗への備え作業の前に控えを取り、漏れたら無効化する返信のひな形の控えを取り、月の利用料に上限を設定する

原則の中身は、Webやアプリの安全対策の手引きを出す国際的な非営利団体の OWASP、Anthropic と OpenAI の公式ドキュメント、公的機関の資料にもとづきます。

情報の入口

AIに読ませるものは信頼できる範囲に絞り、認証情報、個人情報、機密情報は入れません。

Webページ、メール、文書に書き込まれた指示で、AIが本来と違う動作をすることがあります。これをプロンプトインジェクションと呼び、OWASP は「OWASP Top 10 for LLM Applications 2025」の1番目のリスクに挙げています。Anthropic は、成功率が1%でも意味のあるリスクだとしています。

APIキーやパスワードは、チャットに書かず、画面の撮影にも写しません。Claude Code(Anthropic 社が提供するAIエージェント)では、チャットに書いた内容が、PCのセッション記録と Anthropic のサーバーの両方に残るためです。APIキーは、.env というファイルか環境変数に置きます。

本ガイドの推奨は、個人情報と機密情報をAIに入れないことです。業務は、ひな形と差し込みに分けます。AIには {氏名} などの差し込み欄を入れたひな形だけを作らせ、実際の名前はAIの外で差し込みます。個人情報保護委員会も、個人データを含むプロンプトを入力し、応答以外の目的で扱われると、法令違反の可能性があるとしています。

2026年9月時点の仕様

Claude の個人向けの契約プランでは、設定「モデル改善に協力」がオンのとき、チャットと Claude Code のセッションが学習に使われます。法人向けの Team、Enterprise と API は、利用者が別途同意しない限り学習に使われず、2026年1月1日からデータ処理契約を含みます。

関連:『現時点の仕様』の『Claude Code 全般』

法人向けの規約でも、個人情報を入れてよいとまでは書かれていません。入れるかどうかは、契約内容を確認したうえで経営者が決めます。AIを提供する会社の法人向けの契約プランを結び、契約内容を確認した会社は、AI利用ルールで、AIに入れてよい情報の種類を決めたうえで使う方法もあります。

情報は、次の3段階で分けると、AIに入れてよいかを決めやすくなります。社外秘と極秘が機密情報です。個人情報を含むものは、ほかの内容にかかわらず極秘にします。

段階例個人向けの契約プラン(無料を含む)法人向けの契約プラン
公開
漏れても事業にほとんど影響がない
製品カタログ、Webサイトに載せている文入れてよい入れてよい
社外秘
漏れると事業に大きな影響がある
仕入の価格、取引先ごとの値引きの条件、社内の手順書入れない原則として入れない。入れるかどうかは、契約の内容を確かめたうえで経営者が決める
極秘
法律で守る義務がある、または取引先や顧客に大きな影響がある
顧客名簿、マイナンバー、取引先から預かった機密の資料、自社の独自の技術入れない。個人情報は、ひな形と差し込みに分ける原則として入れない。個人情報は、ひな形と差し込みに分ける。入れるかどうかは、契約の内容を確かめたうえで経営者が決める

パスワードとAPIキーは、どの契約プランのAIにも入れません。

この表は、本ガイドが作った区分です。段階の呼び方と分け方は、IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(2026年3月)の3段階に合わせています。個人向けの契約プランに社外秘と極秘を入れない線引きは、デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(2026年6月)を参考にしています。デジタル庁の資料は政府機関向けで、規約への同意だけで使えるAIでは、機密性2以上の情報を原則扱わないとしています。

権限の絞り方

AIエージェントに渡す権限は、その仕事に必要な分だけにします。

OWASP は、AIに与えた機能、権限、自律性が大きすぎることを過剰な権限と呼び、主要なリスクに挙げています。見積書の下書きだけを任せるなら、会計ソフトへの書き込みとメールの送信は許可しません。迷ったら、権限モードを Manual で使ってください。

特に、機密を読める状態と外部に送れる状態を、同時に持たせません。プロンプトインジェクションで多い被害はデータの持ち出しで、最後の段階は外部への通信です。顧客名簿を整理させるセッションでは、Web取得とメール送信を許可しません。

プラグインや MCP のサーバーは、PCで動くソフトと同じように扱い、作った人と更新状況を確かめてから入れます。Anthropic の公式ドキュメントは、プラグインが入れた人の権限で任意のプログラムを実行でき、Anthropic は中身を検証していないと書いています。

決まった時刻に自動で動くルーティンは、実行中に承認の確認が出ず、操作は本人の名前で記録されます。接続した外部サービスとアクセス権は3か月ごとに見直し、使っていないものは取り消します。

関連:『AIに与える権限』

関連:『外部サービスとの接続』

外部に出る直前の承認

送信、公開、支払い、削除は、人が内容を見てからボタンを押します。

これらの操作は、AIの画面から取り消せません。請求メールは AIエージェントに下書きまで作らせ、送信は人が押します。「メールを見て必要な対応を全部やって」のような、範囲の決まっていない頼み方はしません。必ず止めたい操作は、フックで実行前に止めます。

共有リンクや作業中のページの URL は、公開したものとして扱います。Claude のヘルプは、共有リンクの転送は止められず、共有を止めても他人のコピーは消せないと書いています。見積金額や顧客名が入ったチャットは、共有リンクにしません。

利用料は、通知の設定と、上限で止まる設定の両方を先に入れます。OWASP は、使いすぎによる金銭的な損害を「無制限の消費」としてリスクに挙げています。事業用と試験用で APIキーを分けます。

関連:『公開前の確認』

関連:『従量課金のAI』

失敗への備え

AIエージェントに触らせる前に控えを取り、APIキーが漏れたら削除より先に無効化します。

Claude Code のチェックポイントで戻せるのは、ファイル編集のツールによる変更だけです。シェルコマンドの実行による変更や、外部で起きた変更は戻りません。Webサイトの修正を任せる前に、Git で今の状態を記録し、在庫表や会計のデータは接続する前に書き出しておきます。

APIキーが漏れたら、最初にその APIキーを無効化し、新しい APIキーを作ります。GitHub の公式ドキュメントは、履歴を書き換えてもコピーやキャッシュに残ることがあるとして、先に無効化か差し替えをするよう書いています。

AIエージェントに接続するアカウントが乗っ取られると、ここまでの原則は意味を失います。AIのアカウントは1人1つにし、2段階認証を設定します。

関連:『事故の初動』

IPA 6か条との対応

IPA の情報セキュリティ6か条は、AIを使っても条文は変わらず、各条の守る対象が増えます。

6か条は、IPA が中小企業向けのガイドラインで示す基本の対策で、2026年3月27日の第4.0版で「バックアップを取ろう」が加わりました。AIエージェントを使うと、各条の守る対象は次のように増えます。

6か条従来の守る対象AIを使うと加わる対象このページの場所
OSやソフトウェアは常に最新の状態にしようOS、業務ソフトAIエージェントのアプリ、MCP のサーバー権限
ウイルス対策ソフトを導入しようメールの添付ファイルAIエージェントが取得して保存したファイル情報の入口
パスワードを強化しようログインのパスワードAPIキー、AIのアカウント情報の入口、失敗への備え
共有設定を見直そうクラウドのフォルダAIに見せる範囲、AIが操作できる範囲、AIを提供する会社に送る情報権限、外部に出る出口
バックアップを取ろうPCが故障したときの復旧AIエージェントが誤って書き換えたファイルの復旧失敗への備え
脅威や攻撃の手口を知ろう偽のメール、偽のサイトプロンプトインジェクション情報の入口

6か条に書かれていない危険は、AIが読んだ文章の中の指示に従ってしまうことです。これはウイルス対策ソフトでは止まらないため、情報の入口と権限の原則で防ぎます。

出典:IPA「SECURITY ACTION 一つ星(情報セキュリティ6か条)」

まとめ

  • 安全の原則は、AIが間違えないことを前提にしません。だまされても被害が小さく済み、人が気づけて、戻せる仕組みを先に用意します。
  • 個人情報と機密情報はAIに入れず、ひな形と差し込みに分けます。認証情報はチャットに書きません。
  • 機密を読める状態と外部に送れる状態を、同時に持たせません。
  • 送信、公開、支払い、削除は、人が内容を見て押します。利用料には通知と止まる上限を入れます。
  • 作業の前に控えを取り、APIキーが漏れたら最初に無効化します。

よくある質問

ウイルス対策ソフトを入れていれば、AIエージェントがだまされる心配はありませんか?
いいえ。ウイルス対策ソフトは、AIエージェントが保存したファイルは検査しますが、AIエージェントが文章の中の指示に従って行う操作は止められません。AIに読ませるものを絞り、機密を読める状態と外部に送れる状態を同時に持たせないようにしてください。送信や支払いの直前で人が承認する仕組みも合わせて用意します。
法人向けの契約プランなら、顧客の個人情報をAIに入れてもよいですか?
契約の内容しだいです。Anthropic の法人向けの規約は、Team、Enterprise、API のいずれも、入力を既定で学習に使わないと定めていますが、個人情報を入れてよいとまでは書いていません。入れるかどうかは、契約内容を確認したうえで経営者が決めてください。迷う場合は、個人情報を入れずに、ひな形と差し込みに分けて扱う方法が安全です。
AIのアカウントを、社内の全員で1つ共有してもよいですか?
おすすめしません。1つのアカウントを共有すると、パスワードを社内で回すことになり、誰がどの操作をしたかも分からなくなります。AIのアカウントは1人1つにし、それぞれに2段階認証を設定してください。

「うちの場合はどこから始めるか」を一緒に整理します

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