「AIを業務に取り入れたいが、どの業務から、どの順番で始めればよいのか分からない」
このページでは、AIを業務に導入する順番を、最初の1業務の選び方と、人が確認する地点を中心に説明します。
- 導入は、棚卸し、小さく試す、ルール作り、広げる、見直しの5つの工程で進めてください。
- 最初の1業務は、取り返しがつきやすく、正解を人が判断できる業務を選びます。例は問い合わせ返信の下書きです。
- 人が確認する地点は、AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所です。
- 試す期間は2〜4週間を目安にし、やめる条件を始める前に決めてください。
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業務でどう使うか
- 問い合わせ返信の下書きを AIエージェントに任せ、送信は人がする
- SNS投稿や求人票の案を3つ作らせ、人が1つを選ぶ
- 会議の記録や日報を要約させる。元の文は社内の情報だけにする
- 見積書や案内文の言い回しを整えさせる。金額は人が入れる
- 本物の顧客名簿で最初から試す
- 1つのアカウントを従業員全員で使い回す
- 規約を読まずに、個人向けの無料の契約プランへ取引先の資料を入れる
- 「AIで月にいくら浮く」と、試す前に約束する
導入の5つの工程
導入は5つの工程に分け、前の工程で決めたことを次の工程の前提にしてください。
会社でAIを使うと、個人で使うときと比べて、扱う情報に顧客や取引先の情報が含まれ、使う人が増え、費用が毎月かかります。一度に始めると、どこで問題が起きたのかが分からなくなります。
棚卸しでは、どの業務で、誰の情報を、誰の名義で使うかを書き出します。これが決まると、必要な契約プランも決まります。
| 工程 | 関連する問い | 残すもの |
|---|---|---|
| 棚卸し | コンテキスト 安全と責任 | 業務と情報の一覧、規約を確かめた日 |
| 小さく試す | ゴール 検証 | 使ったプロンプトと日時、手直しした箇所 |
| ルール作り | 権限 安全と責任 | 4項目を書いた1枚のルール |
| 広げる | 権限 検証 | 承認する人の名前、取引先への説明 |
| 見直し | 権限 安全と責任 | 見直した日、解約したサービスと無効にしたAPIキー |
関連:『変わらない5つの問い』
最初の1業務の選び方
最初の1業務は、取り返しがつきやすく、正解を人が判断できる業務を選んでください。
選ぶときは、次の4つの条件をすべて満たすかを確かめます。
- 取り返しがつきやすい
- 生成物が外部に出る前に、人が確かめる地点があること。メールの下書きは送信前なら直せますが、送信した後は取り消せません。
- 正解を人が判断できる
- 生成物が正しいかを、使う人が自分の知識や元の資料で判定できること。判定できない業務では、誤りに気づけません。
- 個人情報や機密情報を含まない
- 顧客の個人情報や、取引先から預かった機密情報を含む業務は、ルールを作った後に回します。
- 週に何度も発生する
- 試す回数が取れること。月に1回の業務では、2〜4週間で効果を判断できません。
| 業務の例 | 最初の1業務として | 理由 |
|---|---|---|
| 問い合わせ返信の下書き | 向く | 送信前に人が直せる。件数が多い |
| SNS投稿や求人票の案出し | 向く | 社内の情報だけで済む。案を選ぶのは人 |
| 日報や会議の記録の要約 | 向く | 元の文を人が持っていて、照合しやすい |
| 請求書の作成と送付 | 後に回す | 金額と送信が関わり、誤りがそのまま取引先に伝わる |
| 給与計算や人事評価 | 後に回す | 個人情報を扱い、評価には本人への説明が要る |
雑貨の卸を営む8人の会社では、最初の1業務に問い合わせ返信の下書きを選びました。過去の返信10通の社名と個人名を仮の名前に置き換えて AIエージェントに渡し、会社の文体で返信案を3つ作らせます。使う人は案を選び、手直しして送信します。2週間のあいだ、手直しにかかる時間が、ゼロから書くより短いかを毎日記録しました。
試す期間とやめる条件
試す期間は2〜4週間を目安にし、やめる条件を始める前に決めてください。
週に1回、10分ほど振り返ります。やめる条件は、例えば「手直しの時間がゼロから書くより長い日が3日続いたら、この業務では使わない」のように書いておきます。効果の出ない使い方を続けずに済みます。
試す間は、架空のデータか、名前や連絡先を仮の名前に置き換えたデータだけを使います。使ったプロンプト、日時、使ったAIのサービス、手直しした箇所を記録してください。この記録が、次の工程で作るルールの材料になります。
AIエージェントに任せる範囲は、試す段階では小さく保ちます。任せる範囲を広げる順番は、『AIに任せる範囲の決め方』で説明しています。
人が確認する地点
人が確認する地点は、AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所です。
| 地点 | 人が確かめること |
|---|---|
| AIに渡す前 | 渡す資料に、個人情報や機密情報が入っていないか |
| 生成物ができた後 | 数字、日付、金額、固有名詞、引用、URL が元の資料と一致するか |
| 外部に出る前 | 宛先、金額、公開範囲。送信や公開のボタンは人が押す |
生成物ができた後の確認が要るのは、AIモデルが事実と違う内容をもっともらしく出力するハルシネーションがあるためです。AIエージェントが「確認済み」と書いていても、人が出典のURLや元の資料を開いて確かめてください。
関連:『生成物の検証』
A4 1枚のルール
試した結果をもとに、次の4項目だけをA4 1枚にまとめてください。長い規程は読まれにくいためです。
- 入力してよい情報
- 機密情報は入れません。顧客の名前や連絡先は、ひな形と差し込みに分けます。取引先と結んだ秘密保持契約(NDA。機密情報をほかに漏らさないと約束する契約)で、外部のAIへの入力が禁じられていないかも確かめます。AIを提供する会社の法人向けの契約プランを使う場合は、契約内容を確認したうえで、扱う情報を経営者が決めます。
- 契約プランとアカウント
- 個人向けの規約か法人向けの規約か、入力した内容が学習に使われる設定になっていないか、誰の名義で契約し誰が使うかを書きます。アカウントは使い回さず、2段階認証を設定します。
- 承認が要る操作
- 送信、公開、投稿のように外部に出る操作と、支払い、契約、解約です。生成物を採用や与信のような人の評価に使うことも含めます。
- 費用の上限
- 月の上限額と、超えそうなときに知らせる相手を書きます。従量課金のAIを使う場合は、APIキーを誰が管理するかも決めます。
4項目を決めるのは経営者です。使う人は、このルールの範囲でAIを使います。
広げる順番と見直し
利用は、使う人、業務、権限の順に1つずつ広げ、3か月ごとに見直してください。
一度に2つ以上を変えると、うまくいかなかったときに原因を特定できません。2業務目は、外部に出る操作を含まない業務から選びます。新しく使う人には、使い始める前に1枚のルールを渡し、最初の1週間は先に使っていた人が生成物を一緒に確かめます。
先ほどの卸の会社では、返信の下書きを営業の2人に広げ、1か月後にSNS投稿の案出しを2業務目にしました。AIエージェントは案を作るだけで、投稿ボタンは人が押します。2業務目でも記録を取り、手直しの時間が短くなったことを確かめてから、3か月目に在庫表の整理を検討しました。
見直しでは、規約が変わっていないか、契約プランが使う人数に合っているか、費用が上限の中に収まっているか、接続している外部サービスと APIキーを使い続けているかを確かめます。使っていないサービスは解約し、APIキーを無効にして、接続を解除してください。退職する人のアカウントは、退職日に止めます。
IPA(情報処理推進機構)のクラウドサービス利用の手引きは、利用を終えるときに、預けたデータが返却または消去されるかを確かめるよう求めています。
関連:『導入チェックリスト』
まとめ
- 使いたい業務、そこで扱う情報、契約の名義を書き出してください。
- 最初の1業務とやめる条件を決め、架空のデータで2〜4週間試します。
- AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所で、人が確かめます。
- 試した記録をもとに4項目のルールをA4 1枚にまとめ、使う人、業務、権限の順に1つずつ広げてください。