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著者 ハルオ(プロフィール)公開日 2026年10月10日最終更新 2026年10月13日

導入の進め方

第3部 実践(6ページ中2ページ目)

「AIを業務に取り入れたいが、どの業務から、どの順番で始めればよいのか分からない」

このページでは、AIを業務に導入する順番を、最初の1業務の選び方と、人が確認する地点を中心に説明します。

結論
  • 導入は、棚卸し、小さく試す、ルール作り、広げる、見直しの5つの工程で進めてください。
  • 最初の1業務は、取り返しがつきやすく、正解を人が判断できる業務を選びます。例は問い合わせ返信の下書きです。
  • 人が確認する地点は、AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所です。
  • 試す期間は2〜4週間を目安にし、やめる条件を始める前に決めてください。

このページで出てくる言葉の意味は用語一覧で確認できます。

業務でどう使うか

使いどころ
  • 問い合わせ返信の下書きを AIエージェントに任せ、送信は人がする
  • SNS投稿や求人票の案を3つ作らせ、人が1つを選ぶ
  • 会議の記録や日報を要約させる。元の文は社内の情報だけにする
  • 見積書や案内文の言い回しを整えさせる。金額は人が入れる
避けたい使い方
  • 本物の顧客名簿で最初から試す
  • 1つのアカウントを従業員全員で使い回す
  • 規約を読まずに、個人向けの無料の契約プランへ取引先の資料を入れる
  • 「AIで月にいくら浮く」と、試す前に約束する

導入の5つの工程

導入は5つの工程に分け、前の工程で決めたことを次の工程の前提にしてください。

会社でAIを使うと、個人で使うときと比べて、扱う情報に顧客や取引先の情報が含まれ、使う人が増え、費用が毎月かかります。一度に始めると、どこで問題が起きたのかが分からなくなります。

棚卸し使いたい業務、そこで扱う情報、今の契約を書き出す
小さく試す1業務を架空のデータで試し、生成物を人が照合する
ルール作り試した結果から、4項目のルールをA4 1枚にまとめる
広げる使う人、業務、権限を1つずつ増やす
見直し規約、費用、接続を確かめ、使わないものは解約する

棚卸しでは、どの業務で、誰の情報を、誰の名義で使うかを書き出します。これが決まると、必要な契約プランも決まります。

工程関連する問い残すもの
棚卸しコンテキスト 安全と責任業務と情報の一覧、規約を確かめた日
小さく試すゴール 検証使ったプロンプトと日時、手直しした箇所
ルール作り権限 安全と責任4項目を書いた1枚のルール
広げる権限 検証承認する人の名前、取引先への説明
見直し権限 安全と責任見直した日、解約したサービスと無効にしたAPIキー

関連:『変わらない5つの問い』

最初の1業務の選び方

最初の1業務は、取り返しがつきやすく、正解を人が判断できる業務を選んでください。

選ぶときは、次の4つの条件をすべて満たすかを確かめます。

取り返しがつきやすい
生成物が外部に出る前に、人が確かめる地点があること。メールの下書きは送信前なら直せますが、送信した後は取り消せません。
正解を人が判断できる
生成物が正しいかを、使う人が自分の知識や元の資料で判定できること。判定できない業務では、誤りに気づけません。
個人情報や機密情報を含まない
顧客の個人情報や、取引先から預かった機密情報を含む業務は、ルールを作った後に回します。
週に何度も発生する
試す回数が取れること。月に1回の業務では、2〜4週間で効果を判断できません。
業務の例最初の1業務として理由
問い合わせ返信の下書き向く送信前に人が直せる。件数が多い
SNS投稿や求人票の案出し向く社内の情報だけで済む。案を選ぶのは人
日報や会議の記録の要約向く元の文を人が持っていて、照合しやすい
請求書の作成と送付後に回す金額と送信が関わり、誤りがそのまま取引先に伝わる
給与計算や人事評価後に回す個人情報を扱い、評価には本人への説明が要る
例

雑貨の卸を営む8人の会社では、最初の1業務に問い合わせ返信の下書きを選びました。過去の返信10通の社名と個人名を仮の名前に置き換えて AIエージェントに渡し、会社の文体で返信案を3つ作らせます。使う人は案を選び、手直しして送信します。2週間のあいだ、手直しにかかる時間が、ゼロから書くより短いかを毎日記録しました。

試す期間とやめる条件

試す期間は2〜4週間を目安にし、やめる条件を始める前に決めてください。

週に1回、10分ほど振り返ります。やめる条件は、例えば「手直しの時間がゼロから書くより長い日が3日続いたら、この業務では使わない」のように書いておきます。効果の出ない使い方を続けずに済みます。

試す間は、架空のデータか、名前や連絡先を仮の名前に置き換えたデータだけを使います。使ったプロンプト、日時、使ったAIのサービス、手直しした箇所を記録してください。この記録が、次の工程で作るルールの材料になります。

AIエージェントに任せる範囲は、試す段階では小さく保ちます。任せる範囲を広げる順番は、『AIに任せる範囲の決め方』で説明しています。

関連:『AIに任せる範囲の決め方』

人が確認する地点

人が確認する地点は、AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所です。

地点人が確かめること
AIに渡す前渡す資料に、個人情報や機密情報が入っていないか
生成物ができた後数字、日付、金額、固有名詞、引用、URL が元の資料と一致するか
外部に出る前宛先、金額、公開範囲。送信や公開のボタンは人が押す

生成物ができた後の確認が要るのは、AIモデルが事実と違う内容をもっともらしく出力するハルシネーションがあるためです。AIエージェントが「確認済み」と書いていても、人が出典のURLや元の資料を開いて確かめてください。

関連:『生成物の検証』

A4 1枚のルール

試した結果をもとに、次の4項目だけをA4 1枚にまとめてください。長い規程は読まれにくいためです。

入力してよい情報
機密情報は入れません。顧客の名前や連絡先は、ひな形と差し込みに分けます。取引先と結んだ秘密保持契約(NDA。機密情報をほかに漏らさないと約束する契約)で、外部のAIへの入力が禁じられていないかも確かめます。AIを提供する会社の法人向けの契約プランを使う場合は、契約内容を確認したうえで、扱う情報を経営者が決めます。
契約プランとアカウント
個人向けの規約か法人向けの規約か、入力した内容が学習に使われる設定になっていないか、誰の名義で契約し誰が使うかを書きます。アカウントは使い回さず、2段階認証を設定します。
承認が要る操作
送信、公開、投稿のように外部に出る操作と、支払い、契約、解約です。生成物を採用や与信のような人の評価に使うことも含めます。
費用の上限
月の上限額と、超えそうなときに知らせる相手を書きます。従量課金のAIを使う場合は、APIキーを誰が管理するかも決めます。

4項目を決めるのは経営者です。使う人は、このルールの範囲でAIを使います。

関連:『法律とガイドライン』、『従量課金のAI』

広げる順番と見直し

利用は、使う人、業務、権限の順に1つずつ広げ、3か月ごとに見直してください。

一度に2つ以上を変えると、うまくいかなかったときに原因を特定できません。2業務目は、外部に出る操作を含まない業務から選びます。新しく使う人には、使い始める前に1枚のルールを渡し、最初の1週間は先に使っていた人が生成物を一緒に確かめます。

例

先ほどの卸の会社では、返信の下書きを営業の2人に広げ、1か月後にSNS投稿の案出しを2業務目にしました。AIエージェントは案を作るだけで、投稿ボタンは人が押します。2業務目でも記録を取り、手直しの時間が短くなったことを確かめてから、3か月目に在庫表の整理を検討しました。

見直しでは、規約が変わっていないか、契約プランが使う人数に合っているか、費用が上限の中に収まっているか、接続している外部サービスと APIキーを使い続けているかを確かめます。使っていないサービスは解約し、APIキーを無効にして、接続を解除してください。退職する人のアカウントは、退職日に止めます。

IPA(情報処理推進機構)のクラウドサービス利用の手引きは、利用を終えるときに、預けたデータが返却または消去されるかを確かめるよう求めています。

関連:『導入チェックリスト』

まとめ

  • 使いたい業務、そこで扱う情報、契約の名義を書き出してください。
  • 最初の1業務とやめる条件を決め、架空のデータで2〜4週間試します。
  • AIに渡す前、生成物ができた後、外部に出る前の3か所で、人が確かめます。
  • 試した記録をもとに4項目のルールをA4 1枚にまとめ、使う人、業務、権限の順に1つずつ広げてください。

よくある質問

社内に詳しい人がいない場合、設定は誰に頼めばよいですか?
使う業務、入力してよい情報、承認が要る操作、費用の上限は、経営者が決めてください。契約の手続き、アカウントの発行、2段階認証や APIキーの設定は、取引のあるIT事業者や詳しい人に頼んでかまいません。頼むときは1枚のルールを渡し、その範囲で設定してもらいます。設定が終わったら、誰がどのアカウントと APIキーを管理しているかを一覧にして受け取ってください。
試す段階の費用はどう考えればよいですか?
試す段階は、1業務を1〜2人で使う範囲に絞り、月の上限額を先に決めてください。料金は契約プランごとに変わるため、金額は『現時点の仕様』とAIを提供する会社の料金ページで確かめます。従量課金のAIは使った量だけ請求が増えるため、上限と、超えそうなときに知らせる相手を決めてから使ってください。
従業員全員で1つのアカウントを使い回してもよいですか?
避けてください。誰が何を入力したか分からなくなり、退職した人の利用を止められないためです。多くのサービスは、規約でもアカウントの共有を認めていません。AIを提供する会社の法人向けの契約プランで使う人ごとにアカウントを用意し、2段階認証を設定してください。

「うちの場合はどこから始めるか」を一緒に整理します

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